「第3回 子どもの行動の意味を理解する」
岡田信吾(特別支援教育、インクルーシブ教育)
実のところ、あまり心理学を意識することのない生活を送ってきましたが、心理学の一領域(※ABA)を意識するようになったのは、特別支援学校で働き始めた頃です。
とにかく毎日子どもが、なぜそんな行動をするのかわからなかったのです。担任したクラスは、小学3年生、3人のクラスでした。A君は、鯉のぼりが好きで好きで好きで……、日がな一日鯉のぼりを眺めて過ごしていました。Bさんは、人生に嫌いなことがとにかく一杯ありました。手を使うのがいや、大人の男の人がいや、ご飯食べるのがいや……。一日ずっと泣いていました。C君は、自由奔放で何をしていても、突然叫びながら教室から外に飛び出していきました。
特別支援学校に転勤前は、小学校の教員でした。小学校では、「言葉」で授業し、ほめ、時には叱り、「言葉」をいかに使うかが腕の見せ所だと考えていました。特別支援学校で出会った3人には「言葉」が使えません。A君に「鯉のぼりを見ないで」と言っても、ころころ笑いながら鯉のぼりを指さすばかり、Bさんに「スプーン持って」と言っても嫌そうな顔をするばかり、C君にいたっては、話しかけようとすると、もう目の前にいません。
先輩の先生に相談すると、「真心は通じる」とか、「通じなくても何度も言うことが大切」とか、納得できる話は聞かせてもらえません。しかたがないので本を読みました。障害に関する本には、障害の定義やその実態について書かれていました。そんなことを知ったからといって、C君の脱走が止まるわけではありません。
そして、見つけたのがABAです。ABAで特別支援学校の子どもたちの行動の意味が少しずつ理解できてきました。
ABAでは「言葉」で何か指示することにそれほど注目しません。それよりも子どもにとって、行動の結果何が起きたのかという点に注目をします。考えてみるとAくん、Bさん、Cくんはそれぞれの場面で、自分にできる一番簡単な行動で一番良い結果を得ていたのです。その視点で考えると、彼らの行動の意味が少しずつ理解できたのです。とここで紙面がつきました。この先は、いつかどこかでお話しします。では、さようなら。
編集注:ABA(Applied Behavior Analysis)とは、応用行動分析学と訳され、環境と個人の相互作用から人間の行動の予測と制御について考える学問。発達障害のある子どもや大人へ支援を考える上で評価されている。