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リレーエッセイ「心理学とわたし」第5回・第6回

教育心理学科は、養護教諭や特別支援学校教諭の養成課程のある教員養成系学科ですが、同時に、認定心理士資格が取得できる教育系の心理学科でもあります。

 

本学科において心理学は、養護と特別支援という2つの領域を仲立ちする学問領域と位置づけられます。心のケアもできる養護教諭、心理療法の知識を備えた特別支援学校教諭が育ってほしいと考えています。

 

もちろん、大学院に進学し臨床心理士養成課程を修め、心理臨床の専門家として活躍することも期待しています。というわけで、教育心理学科の学生は、何らかの形で心理学とかかわりますし、学科所属の教員も、専門こそ違いますが、多かれ少なかれ心理学と接点をもっています。

 

そこで、在学生や高校生が心理学により興味をもったり、教育心理学科への関心が深まることを期待して、学科教員がそれぞれの立場で心理学とのかかわりについてリレーエッセイの形で語ることにしました。


 

「第5回 心理学と生物学の融合

森 宏樹(微生物学・分子生物学)

 

 

細胞やウイルス複製の仕組みを分子レベルで解析している生物学の研究者である私にとって、心理学はかけ離れた世界である。だが、いつか心理学は生物学やコンピュータ科学と融合する時がやって来ると予測している。

 

心理学がヒトの心と行動の学問であれば、生物を理解しようとする生物学が進めば、いずれヒトという生物の心や行動も細胞や分子レベルで理解できる時代が来るのではないかと思う。

 

ヒトを含む動物の行動は、脳や中枢神経系にある神経細胞によりコントロールされている。そして、神経細胞をはじめとする細胞はタンパク質など多くの分子から作られている。細胞の働きや細胞内での分子の働きが多くの研究者により明らかにされつつある。細胞内の分子の働きや動きが分かれば、細胞がどのように働くか、神経細胞を含めて様々な細胞がどのように脳などの器官や身体をつくっていくか、などが分かるに違いない。そのようになれば、ヒトの心や行動も分子レベルで理解できるはずである。

 

長期記憶についての研究に、その一例を垣間見ることができる。長期記憶は、特定の神経細胞間のつながりが特定の刺激により発達し、形成される。現在の研究では、特定の遺伝子やタンパク質が働き、神経細胞間のつながりが形成されることが分かっており、長期記憶という生物の行動の一部が分子レベルで理解されつつある。

 

また、コンピュータ上で細胞内での分子の動きをシミュレートすることも試みられている。将来、コンピュータ科学や生物学の研究がさらに進み、神経細胞の働きや細胞内の分子の動きが、コンピュータ上でシミュレートできれば、ヒトの心や行動もコンピュータ上でシミュレートされる時代が来るだろう。

 

 

 

 

「第6回 臨床心理学との出会い

石原みちる(臨床心理学・学校教育臨床)

 

私の「心理学」との出会いは、「臨床心理学」との出会いでした。当時高校生だった私の目に入ったのは、ピアノの上に母が並べていた河合隼雄先生の『大人になることのむずかしさ』(岩波書店,1983)という本です。

 

当時の私は思春期の真っただ中、親や大人への反発に満ちていたのですが、その本は驚きの連続でした。「大人はみんな汚い」とか「大人なんて嘘つきだ」と思いながらも、自分がどんな大人になればよいのか、どの方向に進めばよいのかわからずにいた私にとって、そのもどかしさを理解し語っている「大人」がいることが、何といっても驚きだったのです。

 

私がその本に興味を惹かれていると知った母が、京都で行われる河合先生の講演会に誘ってくれ、高校生の私は河合先生のお話を直接聞くことができました。「子どもの心がこんなにわかる人がいる」「しかもそれを仕事にしている」、「それは『臨床心理学』という分野らしい」……。そこから、私は臨床心理学を目指すことになります。

 

河合先生のおられる大学に入学したものの、学部ですぐに臨床心理学が学べるわけではなく、もどかしさを感じ、本当に自分の進路としてよいのだろうか、何度も悩んだのを覚えています。また、大学院に進学してからも、こんな私が人の心に触れてもいいのだろうか、自分の方が病気ではないのかと思い、向いていない、別の道に行くべきかと思うことが多々ありました。

 

けれども、正常と異常には決して明確な境界がないこと、どんな臨床家もそうした悩みを一度ならず持つこと、初心に帰ることがいかに大切か、等々を臨床家の先生や先輩から学び、自信がなくてもやっていこうと思えるようになったのでした。

 

そのように振り返ると、私と心理学の間にいつもそれをつないでくれる「人」がおり、今もそうした「人」に恵まれているとつくづく思わされます。