教育心理学科は、養護教諭や特別支援学校教諭の養成課程のある教員養成系学科ですが、同時に、認定心理士資格が取得できる教育系の心理学科でもあります。
本学科において心理学は、養護と特別支援という2つの領域を仲立ちする学問領域と位置づけられます。心のケアもできる養護教諭、心理療法の知識を備えた特別支援学校教諭が育ってほしいと考えています。
もちろん、大学院に進学し臨床心理士養成課程を修め、心理臨床の専門家として活躍することも期待しています。というわけで、教育心理学科の学生は、何らかの形で心理学とかかわりますし、学科所属の教員も、専門こそ違いますが、多かれ少なかれ心理学と接点をもっています。
そこで、在学生や高校生が心理学により興味をもったり、教育心理学科への関心が深まることを期待して、学科教員がそれぞれの立場で心理学とのかかわりについてリレーエッセイの形で語ることにしました。
「第4回 何故と問うのが好きだったばっかりに」
岩佐和典(心理アセスメント学,異常心理学,質感認知)
今でこそ色んなテーマに手を出していますが,研究者として最初に取り組んだのはロールシャッハ法についての研究でした。ロールシャッハ法とは,インクのシミを見て何に見えるか・どのように見たのかを訊ね,その結果から相手のことを知ろうとする,いわゆる心理検査のひとつです。
この方法に関心を持ったのは大学3年生の頃だったでしょうか。当時は臨床心理学とともに,認知心理学という心理学の分野にも関心を持っていました。「人が世界を認識する仕組みってどうなっているのかしら」と,たしか,そんなようなことを気にしていたはずです。
そんなときに出会ったのがロールシャッハ法でした。この方法について書かれた本を読むと,「ものの見方の個人差から性格を調べる検査」なのだと書いてあります。胡散臭いと思いました。前提からして信じがたい。そこで「何故ものの見方で性格が分かるの?」と,自分より賢い人々に尋ねてみました。すると,確かに尤もらしい説明は返ってくるものの,その尤もらしさは,私の「何故?」を満足させるに足るものではありませんでした。
ロールシャッハ法で性格がわかるとしたら,「ものの見方(つまり世界を視覚によって認識する働き)」と,性格とが関係するからでしょう。ロールシャッハ法は,その「関係」を掬い取っているに過ぎません。しかし実際のところ,その「関係」を科学的な方法論によって解明した研究は,ほとんど存在しなかったのです。ならば,自分でやればよかろうと思い至り,迂闊にも20代のほとんどをそれに捧げることとなったのでした(とはいえこのテーマは,認知心理学への関心を,臨床心理学の領域で表現するにはうってつけのものでした)。
結局のところ,「何故?」と問うて,それを満足させるのが好きだったから,今こうして研究者をやっているのだと思います。「何故?」が心理学に向いた理由については,紙幅の都合上,思春期の残滓とでもしておきます。