教育心理学科は、養護教諭や特別支援学校教諭の養成課程のある教員養成系学科ですが、同時に、認定心理士資格が取得できる教育系の心理学科でもあります。
本学科において心理学は、養護と特別支援という2つの領域を仲立ちする学問領域と位置づけられます。心のケアもできる養護教諭、心理療法の知識を備えた特別支援学校教諭が育ってほしいと考えています。
もちろん、大学院に進学し臨床心理士養成課程を修め、心理臨床の専門家として活躍することも期待しています。というわけで、教育心理学科の学生は、何らかの形で心理学とかかわりますし、学科所属の教員も、専門こそ違いますが、多かれ少なかれ心理学と接点をもっています。
そこで、在学生や高校生が心理学により興味をもったり、教育心理学科への関心が深まることを期待して、学科教員がそれぞれの立場で心理学とのかかわりについてリレーエッセイの形で語ることにしました。
「第7回 心理学に感謝していること」
山田 美穂(臨床心理学)
大学時代、ボランティアサークルの活動に夢中でした。毎週土曜、知的障碍をもつ子どもたちと公園で遊ぶという活動でした。子どもたちと遊ぶのはたまらなく楽しかったのですが、それ以上に強烈に驚き感動したのは、子どもたちのお母さんたちのおおらかさ、明るさ、温かさでした。
何の知識も経験もない大学生だけのサークルに、お子さんを預けてくださり、活動中に(迷子やらケガやら・・・今思いだしても青ざめるような)トラブルがあったりしても「気にしないで!」と笑って迎えてくださいました。さらに貧乏学生たちをご自宅に招いてはごちそうをふるまってくださったり、飲み会では若い学生よりも豪快にはじける姿を見せてくださいました。
だんだんと親しくさせてもらい、色々なお話も聞かせてもらう中で、お母さんたちがけして最初から明るかったわけではないということを、知るようになりました。子どもたちの障碍を告げられ、子育てに悩み、時には生きるのが辛いほど自分を責めて…という過程をやり抜いたからこそ、今の明るさがあるのだということ、そして今も悩み続けていること、を知りました。心を揺さぶられました。もっと学んで、お母さんたちが辿ってきたような過程で今苦しんでいる人の役に立てるようになりたいと願いました。
その時に、心理学から学ぶことができてよかった、と思いました。お母さんたちが辿った過程は、「障害受容」と呼ばれること、けれどその内実は、「受容した/していない」というような単純なものではないこと、人それぞれに必要な時間がかかること、行ったり来たりの波があること、誰かが働きかけて「受容させる」ようなものではないことなど。お母さんたちの体験談と、心理学の両方から、学びました。
もし心理学を学んでいなかったとしても、私が惹かれるのはおそらく、ひとの心のことなんだろうと思います。特に、大学時代に出会ったお母さんたちのように、苦しい中で懸命に歩んでこられた方々の心の過程に触れて、できたら何かの形で役に立ちたいと願う傾向が、(良いことかどうかはわかりませんが)私にはあるようです。心理学をよりどころにすることで、そのことを考えたり、形にすることができ、さらには仕事にすることまでできたのは、本当に幸いなことだと感じ、心理学に感謝しています。