就実大学・就実短期大学

表現文化学科
  • 学科トップ
  • その他の情報
  • 学科教員一覧
  • 在学生MOVIE
  • カリキュラム
  • 取得可能な資格
  • 主な進路・就職先

考古学クラブ・史学会共催 歴史講演会

桐原健真氏による講演会「『天下』と『五世界』―吉田松陰を中心に」(2018年1月27日)

2018年1月27日(土)午後1時30分より、S101教室にて考古学クラブ・史学会共催歴史講演会が開催されました。前年10月22日(日)の大学祭に予定されていた企画ですが、当日はあいにく台風によって中止となったため、あらためて講師をお招きして開催する運びとなったものです。

 

講師は日本倫理思想史がご専門の桐原健真氏(金城学院大学教授)で、ご著書には『吉田松陰の思想と行動』(東北大学出版会、2009年)、『吉田松陰:「日本」を発見した思想家』(ちくま新書、2014年)、『松陰の本棚:幕末志士たちの読書ネットワーク』(吉川弘文館、2016年)があります。

 

講演はまず、吉田松陰の師である佐久間象山の紹介から始まります。象山は老中および幕府海防掛をつとめる松代藩主・真田幸貫に仕え、アヘン戦争後の緊迫した東アジア情勢の中で、藩社会(一国)を越えて、日本(天下)さらに地球規模の世界(五世界)を認識していきました。幕府とつながっていた象山には、段階を追って世界を認識していく時間的余裕がありましたが、ペリー来航後に突然、西洋列強と向き合わなければならなかった松陰には、そうした余裕がなかったと指摘されます。

 

萩藩(長州藩)の山鹿流兵学者であった松陰は、藩社会(一国)に軸足を置く立場で西洋列強(五世界)と対峙することとなり、象山のように、その中間段階としての日本(天下)を置くことが難しかったといいます。長崎平戸において、アヘン戦争を回顧・反省した魏源の著作などに触れ、松陰は藩レベルでの世界認識や伝統的な兵学が西洋列強に対しては役に立たないことを自覚します。

 

こうして藩社会と西洋列強との間の空白を埋めるべく松陰の遊学が始まり、水戸学における「皇国」概念に触れるに及んで、彼はようやく日本(天下)を意識することになります。西洋列強(五世界)や徳川の天下という他者との緊張関係の中で、「日本一国」が西洋列強と対等になるべきだという、彼の主張が生み出されていきました。松陰の思想の営みは、自民族中心主義的なものではなく、現実の国際関係の中でナショナリズムを模索し続けたものであるといいます。

 

最後に、グローバリズムや異文化理解が叫ばれている昨今、それでも異文化への偏見や偏狭なナショナリズムが無くならないのには、異文化を理解しようとする「自己」への認識が足りないからではないか、吉田松陰の思想遍歴は、現代の我々にそのことを教えてくれているのではないか、という重要な提言がなされ、講演は終了しました。総合歴史学科の理念にも合致する提言であり、桐原氏には非常に有意義な時間を与えて頂きました。

 

(文責:苅米一志)